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京都在住のブロガーKyotaroです。
今回紹介するのは、1939年(昭和14)に完成し、80年以上が過ぎた今もなお世界中の人を魅了してやまない東福寺本坊庭園「八相の庭」。
手がけたのは、昭和を代表する作庭家の重森三玲。
重森三玲氏の孫、ご自身も庭園デザイナーとして第一線で活躍されている重森千靑さんからお伺いした大変貴重なお話をもとに、方丈の東西南北に広がる「四庭」の具体的な見どころ、重森三玲が仕掛けた「永遠のモダン」の秘密を余すところなく解き明かしていきます。
庭園を「立体絵画」と捉えた芸術家・重森三玲の感性
重森三玲は代々続く庭師の家系出身ではありません。
若き日は東京美術学校(現・東京藝術大学)などで「日本画」を本格的に学び、美学や芸術論を深く追究していた人物でした。
この経歴こそが、彼の作庭における最大の強みとなっていることをご存知でしょうか?
詳しく紹介していきましょう。
日本画の美的感覚が育んだ「キャンバスとしての枯山水」
重森三玲にとって庭園とは、単に草木や石を配置する「造園」ではなく、立体的な「キャンバスの上に描く現代アート」そのもの。
日本画の写生で培った線描の美しさ、色彩の明暗コントラスト、そして画面を引き締める「余白の美学」をそのまま枯山水の三次元空間へ落とし込んだからこそ、それまでの「自然を模倣する」造園の常識を覆す革新的なアプローチが可能となったのは言うまでもありません。
西洋現代アートと伝統枯山水に通じる抽象の美学
重森三玲が情熱を傾けた昭和初期は、西洋でカンディンスキーやモンドリアンに代表される抽象絵画や、キュビスムといった現代アートが花開いた時代でもありました。
重森三玲は日本の美意識を根底に持ちながらも、こうした西洋のアート思考や幾何学的な構造美を枯山水へ大胆に取り入れたのです。
「過去の名園の写しではなく、現代に生きるアートとしての庭園を作る」ーーその強い信念のもと、西洋の抽象絵画に通じる造形美と和の枯山水が心地よく響き合う、唯一無二の「永遠のモダン」を生み出しました。
方丈を包む「四庭」に隠された数字と重森三玲のこだわり
三玲は方丈(本坊)の四方をグルリと囲むように、それぞれ異なる表情を持つ「南庭」「西庭」「北庭」「東庭」を配置しました。
ここからは、千靑氏から伺った秘話とともに、写真に収めたくなる各庭の絶景ポイントを解説します。
【南庭】枯山水の常識を破る巨石群と「京都五山」の遠近法
南庭の見どころは4つのモチーフです。
蓬莱・方丈・瀛洲(えいじゅう)・壺梁(こりょう)の4つの神仙島、八海(はっかい)、五山(ごさん)、南庭の主役に立つと、まず目を奪われるのが白砂の大海(八海)に浮かぶ荒々しい石組です。
横幅約6メートルにも及ぶ巨石を大胆に横たえ、周囲に鋭く尖った巨石を垂直に立たせる手法は、それまでの落ち着いた枯山水の概念を覆す躍動感にあふれています。
伝統的な神仙島を表現しつつも、西側にそっと並べられた5つの苔築山(京都五山)との間に圧倒的な明暗と遠近の対比を生み出しています。
方丈の縁側を歩き角度を変えながら、眺めると庭園の表情は変り、直立しているはずの、ごつごつとした真っ黒な巨石は徐々に斜めに傾いていく姿に驚かされます。
【西庭】大市松を描くサツキの刈込と「井田」の造形美
西庭の見どころは井田市松(せいでんいちまつ)と南西に佇むとても小さな三尊石。
西庭に入ると雰囲気が一変し、幾何学的な立体デザインが現れます。
サツキのくっきりとした四角い刈込と白砂が組み合わされ、上空から見ると古代中国の田地区画制度である「井田(せいでん)」の形=「井」の字を形作っています。
サツキが新緑から初夏にピンク色の花を咲かせる季節は、まさにモダンアートのような鮮やかさです。
西庭の北東から南西を眺めたら、三尊石がさらに小さく見えるのですが、これは遠近法を表し、遠くに佇む山々を表現してるのです。
ひっそりと佇む三尊石が南庭の巨岩と対照的でした。
【北庭】伝統のルーツ「市松模様」と崩れていく「諸行無常」
北庭は、東福寺の代名詞とも言えるグリーン(苔)とグレー(石)の鮮やかな小市松模様。
この斬新な市松デザインについて重森千靑さんから「実は東福寺の開山堂(普門院)の前庭に古くから引かれていた“市松模様の砂紋”から三玲氏が着想を得たもの」と教えてくださいました。
寺に眠る伝統のDNAを立体アートへと昇華させた三玲流のイノベーションです。
さらに北庭の市松模様を西から東(奥)へ追っていくと、西側では整然と並んでいた敷石が、東に進むにつれてひとつ、またひとつと散り散りになり、やがて苔の中に消えていきます。
これはお釈迦様の入滅(死)や、万物が移り変わる「諸行無常」の仏教思想を視覚的に表現した、あまりにも美しい演出です。
絵画の世界でいう“ぼかし”の技術を生かした発想ともいえる、重森三玲独特の演出でもあるんですね。
【東庭】旧材を再利用した小宇宙「北斗七星」
東庭には、白砂と苔の中に円柱形の石が7本、まるで宇宙に浮かぶ星々のように並んでいます。
これは「北斗七星」を表現した空間です。
実はこの7本の石柱、かつて東福寺の東司(トイレ)で実際に使われていた解体石材の柱受けをそのまま再利用したもの。
東福寺の庭園改修に入る際に、寺院側から言われていたのは、境内にある資材は自由に使っても良いが、廃棄せずに使い切ることが条件だったと千靑氏はいいます。
廃棄されるはずだった古い素材に、星空という壮大な宇宙観を吹き込むーー三玲のリサイクル精神と洗練されたセンスが光る庭園です。
庭園の細部に忍ばせた「数字」と物語
釈迦の生涯を象徴する数字「8」の暗号
東福寺本坊庭園が「八相の庭」と呼ばれるのは、上記の通り東西南北の4つの庭の中に、合計「8つ」のモチーフ(蓬莱・方丈・瀛洲・壺梁・八海・五山・井田市松・北斗七星)が散りばめられているためです。
これはお釈迦様の生涯における8つの重要な出来事「八相成道(はっそうじょうどう)」になぞらえた数字の仕掛け。
1つの庭園全体が、釈迦の生涯と仏教哲学を表現した大きな物語となっているのです。
併せて巡りたい東福寺の絶景名所・通天橋と開山堂
八相の庭を堪能した後は、境内をさらに奥へと進みましょう。
東福寺が誇る二大名所「通天橋」と「開山堂」には、庭園鑑賞をより深める素晴らしい景観が待っています。
渓谷をまたぐ空中廊下「通天橋」
洗玉澗を臨む絶景の架け橋
仏殿から開山堂へと続く渓谷「洗玉澗」に架けられた木造の回廊橋です。
新緑の季節には眩しいほどの「青もみじ」が眼下に広がり、秋にはまるで赤い雲の海の上に浮かんでいるかのような絶景が楽しめます。
東福寺三名橋の景観美
東福寺の境内には上流から「臥雲橋」「通天橋」「偃月橋」という東福寺三名橋が架かっており、通天橋から望む木造建築と自然のコントラストは息をのむ美しさです。
重森三玲のデザインルーツが眠る「開山堂(普門院)」
市松模様の原点となった「江戸時代の枯山水」
通天橋を渡りきった先にあるのが、東福寺の創始者・聖一国師(円爾)を祀る開山堂です。
その前庭(普門院庭園)には、白砂と苔が格子状に敷かれた伝統的な市松模様の砂紋が整然と引かれています。
重森三玲は開山堂の前庭(普門院庭園)の測量も行っており、八相の庭、北庭にある「市松模様」は、まさにここから着想を得ていたのです。
八相の庭との深い繋がり
これこそが、重森三玲が北庭の幾何学市松を生み出すきっかけとなった歴史的景観。
開山堂の静かな伝統の砂紋を鑑賞した後に、本坊庭園のモダンな苔市松を思い返すと、三玲がいかに東福寺の歴史を敬い、伝統を未来へ受け継いだのかが深く実感できます。
【東福寺の基本情報】拝観時間・料金・アクセス
●臨済宗大本山 東福寺
TEL:075-561-0087
〒605-0981 京都府京都市東山区本町15丁目778
◆拝観時間 ※シーズンごとに異なる(下記)
・4月~10月:9:00~16:00(受付終了16:00/閉門16:30)
・11月~12月第1日曜日(秋期拝観期間):8:30~16:00(受付終了16:00/閉門16:30)
・12月第1日曜日の翌日~3月:9:00~15:30(受付終了15:30/閉門16:00)
◆拝観料金 ※シーズンごとに異なる(下記)
東福寺本坊庭園 大人500円 小・中学生300円(※11/10~11/30の秋期は大人1,000円)
通天橋&開山堂 大人600円 小・中学生300円(※同じく秋期は大人1,000円)
共通拝観券 大人1,000円 小・中学生500円
※秋の特別拝観期間は共通券の販売なし
◆アクセス JR&京阪「東福寺駅」利用が便利。
・JR奈良線・京阪本線「東福寺駅」下車、徒歩約10分
・京阪本線「鳥羽街道駅」下車、徒歩約8分
・市バス202, 207, 208系統など「東福寺」バス停下車、徒歩約4分
◆駐車場 境内駐車場あり(普通車約30台/無料)
【注意】10月下旬~12月上旬の紅葉特別拝観期間は境内駐車場は完全に閉鎖。周辺道路も激しく混雑するため公共交通機関をご利用ください。
まとめ
今回ご紹介した数々の細やかなエピソードは、重森三玲の孫であり庭園デザイナーとして三玲のDNAを受け継ぐ重森千靑氏から直接教えていただいた貴重なお話です。
「祖父の三玲は決して伝統を壊したのではなく、伝統の真髄をアートとして現代に蘇らせたのです」ーー千靑氏のこの言葉に、三玲の作庭哲学のすべてが凝縮されています。
八相の庭、通天橋、そして市松模様のルーツである開山堂(普門院)。
カメラを片手に東福寺を巡る際は、ただ「綺麗な風景」を撮るだけでなく、三玲がキャンバスに見立てた石や苔の配置、そして伝統とモダンが交差するストーリーにぜひ耳を澄ませてみてください。
時代を超えて語りかけてくる深い感動に出会えるはずです。
































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